楽しむために生きている『麦本三歩の好きなもの』
住野よる『麦本三歩の好きなもの』を読んだ感想です。
以下ネタバレあり。
麦本三歩は大学の図書館で働く20代女子。
好きなものはたくさん。
チーズ蒸しパン、読書、アイス、ブルボンなどなど。
仕事先では怖い先輩に怒られ、優しい先輩に「怒り方」の教えを乞い、おかしな先輩には翻弄されている。
しょっちゅう噛むし、ぶつぶつ一人言を言うし、妄想を膨らませるし、「ふへへ」と変な笑い方をする。
そんな彼女の何気ない日常が描かれている。
天然、あざとい、「三歩だからしょうがない」など、本人にとっては不名誉なことを言われることもあるけれど、三歩は前を向いて生きていく。
ずるした自分への罪悪感でいっぱいになることもあるし、友達のために一生懸命になることもある。
つかみどころがなく、一緒に働いたら好きになれるかわからない。
それが麦本三歩だ。
それでも三歩を好きになれるかもしれないと思える時がある。
「麦本三歩は君が好き」で、三歩は大学時代からの男友達から水族館に誘われ、時折向けられる視線を感じ、「告白されるのでは」と思う。
しかし、彼が告げたのは思いもよらぬことだった。
告げられた三歩は、こう答える。
「どう変わってもいいよ。君がどれだけボロボロになっても、なんにもなくなっても、君が死んだとしても、君を好きなままの私が、少なくともいるから、安心して、生きてほしい」
三歩は周りからそう思われなくても、色々考えてる。
ただその言葉をうまく伝えるすべを持っていなかったり、思ったことを順序立てる前に口にしてしまったりする。
だからこそ、彼女が一生懸命考え、口にした言葉はは相手に響くのだ。
麦本三歩を好きになれるかはわからない。
友達にいたらいいなとも、職場にいたらいいなとも言い切れない。
それでも、これからも元気で、好きなものに囲まれていてほしいくらいには好意を持っている。
彼女の成長していく様を見てみたいと思う。
今日も前に進んでいなくちゃ、今日これから起こる楽しいことを味わえない。
麦本三歩、最後までつかみどころがない、好きになれるかわからない、不確かな存在だった。