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こだま『夫のちんぽが入らない』を読んだ感想です。

 

以下ネタバレあり。

 

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

夫のちんぽが入らない (講談社文庫)

 

 

タイトルも衝撃的だが、中身はもっと衝撃的だ。

 

著者は大学に通うため、田舎から地方都市に出る。

双葉荘という古いアパートに入居した初日、男の人に声を掛けられる。

その人はなぜか堂々としていて、まるで古くからの知り合いのように著者に接する。

著者もそれが嫌ではなく、ほどなくして2人は付き合うことになる。

そして、いざそういう行為に及ぼうとした時、驚愕の事実が2人に襲いかかる。

入らないのだ。

2人はあれこれ試してみるけど、どうがんばっても入らない。

理由がわからないまま大学を卒業し、それぞれ教師となり、結婚をする。

しかし、入らない。

その現実だけがいつまでも変わらずそこにある。

 

こんな風に書くと、性的な苦しみの話かと思うが、そうではない。

著者を苦しめるのは、「自分への自信のなさ」だ。

赴任した学校で学級崩壊が起きた時も、夫と性行為ができないことも全て自分が悪いと責め続けている。

子どもたちとも夫ともつながれない自分は欠陥があるのではないかと苦しむ。

自暴自棄になってみたりするけれど、結局は自分を苦しめるだけだ。

 

さらに自分を苦しめるのは、誰にも相談できないということだ。

家族にも、友人にも、同僚にも著者は自分の悩みを相談できない。

返ってくる答えが怖くて、やっぱり自分が悪いのだと改めて思い知らされたくなくて、そしてその悩みが恥ずかしいことのような気がして、誰にも相談できない。

 

夫を愛しているのに。その人の子どもを産みたいと思うのに。

何もできない自分にまた苦しめられていく。

 

苦しみの連鎖の中で、著者は一人戦っているのだ。

 

夫は著者を愛している。その行為ができなくても一緒にいたいと思ってくれる。

その人のために自分は何を返すことができるのか、その答えは出ないままだ。

 

この本は元は同人誌という形で出たらしいのだが、反響があり、私小説として出版された。

そして、世の中には著者と同じ悩みを抱えている人が実はいたのだ。

著者は本を出したことにより、やっと誰かとつながれたのだと思う。

 

心はつながっているというのは簡単だ。

だけど、本当につながりを求めたい時、人はどうすればいいのか。

その答えがわからなくても、理解してくれる人はいる。

それが、著者のこだまという人だと思う。

 

不器用な人の、不器用な人生。

そこにあるのは苦しみと悲しみだけではないと思う。

そう信じさせてくれるのがこの本だ。

 

学級崩壊の部分では胸が苦しくなり、夫の子どもを産みたくても産めない部分では切なくなる。

でも、なぜかところどころくすりと笑えるのだ。

その笑える部分があるからこの本を読み切ることができた。

 

この本の後に出たエッセイもおもしろかった。

maruttomimikichi.hatenadiary.jp

 

この人の魅せ方はすごい。

読んでいると引き込まれていく。

悲しい話や苦しい話もどこかに希望がある。

 

これからも読んでいきたい。