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ビターな『早朝始発の殺風景』

青崎有吾『早朝始発の殺風景』を読んだ感想。

 

ネタバレあり。

早朝始発の殺風景

早朝始発の殺風景

 

 

「啄木町」を舞台にした連作短編ミステリ。

 

「早朝始発の殺風景」

訳あって学校に向かう早朝始発の電車に乗った僕は、クラスメイトの殺風景という名の少女と顔を合わせる。

なぜ彼女は始発の電車に乗っているのか。

同じことを殺風景も考えたらしく、2人は互いに相手がなぜ始発に乗ったのかを推理していく。

すると、事態は思いがけない方向に展開していく。

こちらは「エピローグ」までセットで完結といえると思う。

 

「メロンソーダ・ファクトリー」

姉御肌な「私」、ファミレスでいつもメロンソーダを飲む詩子、物静かなノギちゃんは仲良し女子高生3人組。

いつものファミレスで学園祭で着るためのクラスTシャツの会議をする。

デザイン案は2つ。1つは人気者の石川さん。もう1つは私。

ノギちゃんからの評価も高かったので、てっきり会議は終結すると思ったのだが、詩子が選んだのは石川さんの案だった。

なぜ詩子は親友の案ではなく、石川さんの案を選んだのか。

そこには悲しい事実が秘められていた。

 

「夢の国には観覧車がない」

幕張ソレイユランドに高校の部活引退記念で来た「俺」は、後輩の葛城に告白するつもりだったが、同じく後輩男子の伊鳥と観覧車に乗るはめに。

遊園地に着いてから、伊鳥は「俺」から離れず、観覧車に乗ってからも様子がおかしい。

なぜ伊鳥は俺と一緒に観覧車に乗ったのか。

ちょっと微笑ましくて、ちょっとほろ苦い理由が隠されていた。

 

捨て猫と兄妹喧嘩」

捨て猫を拾った「あたし」は両親の離婚で離れて暮らしている兄貴を呼び出した。

あたしはその猫を飼えない理由があり、兄貴にも猫を飼えない理由がある。

猫が入っていた箱にはキャットフードの缶詰など、猫に必要なものが一緒に入っていた。

なぜ飼い主は猫を捨てたのか。

その理由にたどり着いた時、あたしと兄貴はこれからの自分たちの関係を見つめ直す。

 

「三月四日、午後二時半の密室」

クラス委員の「わたし」は、卒業式を風邪で休んだクラスメイト、煤木戸さんの家に卒業証書とアルバムを持っていく。

煤木戸さんの部屋は綺麗に整理整頓されていて、まるで彼女の清廉潔白な性格を表しているようだ。

煤木戸さんと会話を重ねるうちに、わたしはクラスで浮いていた彼女が仮病を使って卒業式を休んだのではないかと思いだす。

そして、この部屋に入ってから感じている違和感はなんなのか。

その答えは、意外なもので、少し微笑ましい。

 

「エピローグ」

それぞれの話に出てきた人物たちのその後の話が僕と殺風景を中心に描かれている。

殺風景がなぜ始発にこだわったのか、その結末も書かれている。

それはとってもビターだけど、どこか希望がある。

 

 

久しぶりにミステリを読んだけど、大満足な1冊。

青崎有吾は『体育館の殺人』始まる裏染天馬シリーズもおもしろいのでおすすめ。

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)