新しい家族の形
山崎ナオコーラ『偽姉妹』は、新しい家族の形を提唱する小説だ。
以下ネタバレあり。
正子は『屋根だけの家』で息子の由紀夫、姉の衿子、妹の園子と暮らしている。
『屋根だけの家』とは、正子が建てた屋根を重視した家だ。
緑色の屋根が、地面に着くぐらいまで家を覆う。ところどころ、出っ張ったり、窓が付いていたりしているが、すべて屋根っぽい造りだ。壁を感じさせない外観にした。
離婚した正子を心配した姉妹が一緒に住むことになり、初めのうちは何も思っていなかった正子だが、段々と息苦しさを感じるようになる。
正子は、衿子のことも園子のことも、幼少時代からずっと変わらず好きだ。だが、自分の離婚のあとくらいから、「『血の繋がった家族』という理由で仲良くするのは嫌だ」という気持ちが芽生えてきた。衿子や園子が悪いのではなく、自分の側の変化だ。
その息苦しさは、正子の友人、百夜とあぐりが正子の家に転がりこんできた時、頂点を迎える。
姉妹の存在に感謝しながらも、正子は百夜とあぐりと姉妹になりたいと望むようになる。
結婚相手を自分で決めて、離婚も自分の判断で行えて、再婚や再々婚もできる自由を持てる時代に生きているのに、姉妹を決められないのはおかしい。そんなことを正子は考えたのだった。
こうして正子は、衿子と園子という「血の繋がった家族」より、百夜とあぐりという「血の繋がらない家族」を選ぶのだ。
正子は決して自分の感情やわがままに任せてこの選択をしたわけではない。
自分の生き方を考えたときに、一番どの選択をすればいいのかしっかりと考えて結論を出している。
もちろん、衿子と園子にとっては勝手な話になるだろう。2人は正子から縁を切られたも同然なのだ。
私は、正子の考えに賛成できる。血の繋がりだけが家族の証ではない。
家族を選ぶことができる自由を持てば、生きやすい人もいると思うからだ。
「偽姉妹」となった3人は、どうやったら社会にそのことを認知してもらえるか考える。
その過程も、その結論もおもしろい。
何にも縛られない「偽姉妹」は、どこまでも自由なのだ。
物語は最後、別の人の視点によって終わるのだが、そこも最高に素敵。
この物語を最後まで読んで良かったと思える。
新しい家族の形を提唱したこの作品、読んでいて胸に刺さる言葉がいくつも出てくる。
いつかもっとみんなが自由に家族を選べる時代になったらいいなと思う。
山崎ナオコーラの作品はこれが初めてだったのだけど、とてもおもしろかった。
他の本も読むぞ。