言葉に救われる
最果タヒ『きみの言い訳は最高の芸術』を読みました。
詩人であり小説家である著者のエッセイ。
一編一編のタイトルが素敵で、目次を読むだけでおもしろい。
「運動神経未完成自我」、「才能だって努力だって、憧れだって、最高じゃん。」、「今だけしか生きてくれない、音楽」などなど。
内容ももちろんおもしろい。
淡々というよりさらさらと文章が流れていく。でも時々、はっとさせられる箇所があり、読んでいて油断がならない。
特に私が好きなのは、「感情の娯楽性」。
著者が小さい頃に流行とか気にしないタイプだったので、友達に「今これが熱い」と言われることに恐怖を覚えていたということが書かれている。
これ、すごくよくわかる。
私も小さい頃、周りの流行に鈍感で、友達との会話に窮することが度々あり、会話に困らないよう、流行を追いかけていたことがある。
それでも流行に乗るということがやっぱりできなくて、周りから浮いていた。
そんな自分を恥じていたし、コンプレックスだったけど、このエッセイによって救われた。
服とか音楽とかめちゃくちゃ好きなものができるまでは、流行に興味がなくても、なぜかそれについていかなくちゃという恐怖心があって、その恐怖ほど無意味なものもなかったと思う。
そうか、私が当時感じていたのは恐怖心だったのか。
そして、その恐怖って無意味な恐怖だったんだな。
著者はそこまでこのことを主張したいわけではないかもしれない。
本当に言いたかったことはそこではないかもしれない。
だけど、私はこの言葉に当時の自分が救われたように感じた。
当時の自分を恥じることさえ、無意味なのではないかと思うことができた。
本を読んでいると言葉に救われる瞬間がある。
それが作者の意図するところではなくても、自分の心にその言葉が引っかかることがある。
だから本を読むことが好きなんだと思うし、たくさんの本に触れたいと思う。
私は「詩」を理解できないという思い込みで、著者の作品を読んだことがなかったけど、この本をきっかけに他の著作も読んでみようと思う。
理解できなくても、もしかすると自分の心に引っかかる言葉にまた出会うことがあるかもしれない。
一編一編短くて読みやすいので、おすすめの1冊です。