心の声は最強の味方
綿矢りさ『私をくいとめて』は、30代の女性が自分の心の声と対話しながら話が進んでいく。
以下ネタバレあり。
主人公のみつ子は自分の心の声に「A」と名付け、困った時はアドバイスを求め、寂しい時は話し相手になってもらう。
ただ、あくまで自分の心の声なので、Aの与えるアドバイスが全て成功するわけではない。そこら辺がリアリテイがあっておもしろい。
みつ子はAという絶対的な味方をつけ、恋や自分の人生に向き合っていく。
途中イタリアにいる友人に会いに行き、イタリアでクリスマスとお正月を迎える。
料理の描写は食欲をかきたてるし、イタリアのクリスマス・お正月の描写は日本との違いを知ることができておもしろい。
私は主人公の同僚ノゾミさんが好き。
見た目は完璧だけど中身に難ありの男に熱烈な恋をし、女性の年齢を飲み物に例えるノゾミさんは地味な印象だけど、自分というものを持っていて、意外にしたたかな面がある。
でもそれら全てがチャーミングな女性なのだ。
Aとの対話、邂逅が主人公を少しずつ変えていく。その過程が丁寧に書かれている。
誰しも自分の心の声と一度は対話したことがあると思うので、みつ子に共感できるはず。
これまでいくつか綿矢りさ作品を読んできたが、これが一番読みやすかった。
悪意がある人が一人も出てこないというのも、珍しいのではないだろうか。
綿矢りさ最初の1冊としてもおすすめ。