こってりと濃厚。
こってりと濃厚。
まさか小説にこの表現を使う日が来るなんて。
しかし、この小説にはぴったりな表現だと思う。
以下、ネタバレあり。
柚木麻子『BUTTER』
男たちから金を奪い、3件の殺害容疑で逮捕された梶井真奈子。
彼女は美しくない容貌のため世間からより一層注目を浴びた。
週刊誌で記者として働く里佳は彼女から独占インタビューを取ろうと、彼女の元に通い始める。
しかし、取材を重ねるうちに彼女の存在が里佳の生活にまで侵食していき、里佳は次第に梶井真奈子に取り込まれていく。
実在する事件を下敷きにした、長編小説。
とにかく濃厚。
まず、里佳を巡る人間関係の複雑さ。
親友の怜子は、里佳が梶井真奈子に取り込まれていく様を黙って見ていられない。自分自身も問題を抱えたまま、彼女は大胆な行動をとる。
恋人の誠は、次第に変わっていく里佳に不安と不満を感じるようになる。
そして亡くなった里佳の父親。彼の死が里佳の人生に大きく影響し、この物語の大きな核にもなる。
次に、たくさんの料理描写。
バターを使った料理がこれでもかと出てくる。
一読すると全て美味しそうに感じるのだが、次第に何か異なる感情を抱くようになる。
そして極めつけは、梶井真奈子という存在。
美しくない容貌でいることを歯牙にも掛けず、多くの男たちを翻弄する。
彼女が話すことはどこからどこまでが本当で、嘘なのか。
読みながら里佳と共に頭を抱える。
この物語にはいくつか核がある。
先述したように亡くなった里佳の父親、数々の料理、容貌に対する他者の目、そして傷ついている女性たち。
どの核もこの物語には必要不可欠で、これらがあったから前向きな終わりを迎える。
そう不思議なことに、これだけこちらの頭を痛ませておいて、前向きな終わりを迎えるのだ。
だから決して途中で読むのをやめず、最後まで読み終わってほしい。
きっと、ちがった世界が広がるから。
柚木麻子の小説は『ランチのアッコちゃん』や『王妃の帰還』、『本屋さんのダイアナ』くらいしか読んでいなかったけど、この小説で改めてそのすごさがわかった。
他の作品ももっと読まねば。