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翻弄する綿矢りさ

綿矢りさの作品を意識的に読んでいるが、今回読んだ『ウォーク・イン・クローゼット』に収録されている「いなか、の、すとーかー」はこれまでの作品と毛色が違った。

以下ネタバレあり。

 

ウォーク・イン・クローゼット (講談社文庫)

ウォーク・イン・クローゼット (講談社文庫)

 

 

これまで読んできたのが女性を主人公にしてきたのに対し、この話は男性が主人公だ。

若き陶芸家である主人公は地元で活動し、テレビにも取り上げられ、将来が約束されたも同然。

ゆとりニートの友人や自分に想いを寄せてくれる可愛い女性もいて、彼の人生は完璧に見えた。

あの女が来るまでは。

 

タイトルの通り、彼にはストーカーがいる。

一方的に想いを寄せられ、会話が通じず、意思疎通ができない。

東京から彼を追いかけてきて、仕事場にも勝手に入って来る。

 

あらすじを簡単に書くとこんな感じだが、このストーカーに悩まされる彼のストーリーを思い描いた読者はちょっとずつ違和感を感じることになる。

何かがおかしい。

たしかにこの女は完全なるストーカーだし、彼は様々な嫌がらせを受けることになる。

虫の死骸や、「死ね」と書かれた手紙。

彼は違和感を感じるが、それが一体何かわからないまま友人にストーカー対策を頼み、仕事に没頭する。

 

そして、決定的なことが起こり、この物語は恐ろしい方向に進んでいく。

 

綿矢りさのすごいところは、女性の心理描写の巧さにあると思う。

これまで読んできた作品でもそれを感じていたが、この「いなか、の、すとーかー」は更に女性の心理に踏み込んでいる。

恋とはおっかないものである。

そして恋に恋する女性は更に恐ろしい。

 

この物語はきちんと結末を迎える。

結局最後まで翻弄されたまま、物語は終わってしまう。

恐怖という読後感を残したまま。

 

この恐怖には覚えがある。

私が今まで読んできたなかで一番恐怖を感じた津原泰水の「猫背の女」だ。

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

蘆屋家の崩壊 (集英社文庫)

 

これもストーカーに悩まされる男の話だが、とにかく怖い。

「いなか、の、すとーかー」がおもしろかった人にはぜひこちらも読んでもらいたい。

 

それにしても、綿矢りさは「これ、本当に同じ人が書いてるの?」と思わず感じてしまうほど、文章の幅が広い。

綿矢りさってこんな作家、とまだ言うことができない。

これからも読み続けていこうと思う。